インスタDMから始まったサクラサイト被害|不法行為の損害賠償と3年の時効

インスタグラムで、芸能関係者や投資で成功した人を名乗るアカウントからDMが届き、「ここでは話せない」と外部のサイトへ移った。そこで何か月もポイントを買い続けたのに、約束されたことは何ひとつ起きなかった。この記事は、そうした経過をたどった人が、払ったお金を「損害」として取り戻す道筋を民法の不法行為から説明するものです。

要点は4つです。

  • サクラを使って利用料を払わせたとして、民法709条の不法行為を理由にサイト業者へ全額の賠償を命じた裁判例が紹介されています。
  • 請求の相手は運営会社だけでなく、代表者(会社法429条)、サクラを使っていた事業者(民法715条)、一体となって関わった者(民法719条)へ広がる可能性があります。
  • 請求権の時効は、損害と加害者を知ってから3年、不法行為から20年です(民法724条)。
  • 勝訴しても相手に財産がなければ回収できません。早めに相談し、支払い方法側の手続きも並行させることが大切です。

インスタのDMから有料サイトへ移るときに起きていること

消費者庁の注意喚起では、サクラサイトへの誘い文句が4種類に分けられています。異性との交遊を誘う「出会い型」、精神的に弱った芸能人を励ましてと頼む「同情型」、莫大な遺産の受け取りなどを持ちかける「利益誘引型」、そして個人情報閲覧料や文字化け解除手数料といった名目でお金を取ろうとするものです。写真と投稿で人物像を作り込めるインスタグラムのDMは、このうち同情型や利益誘引型の入口として使われることがあります。

押さえておきたいのは、インスタグラム上のやり取りは無料で、お金が動くのは移った先のサイトだという構造です。払ったお金はサイトの運営者に入り、DMの相手はそのサイトの中で「会員」として振る舞います。相手が運営者側の人物であれば、利用者は運営者が作った仕組みの中で支払いを続けさせられていたことになります。不法行為の請求は、この構造を相手方と裁判所に示すところから始まります。

民法709条の不法行為で請求できる理由と、裁判例の考え方

民法709条は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。サクラサイトであれば、運営者が一般会員を装った人物にメッセージを送らせ、実現するはずのない約束で利用料を払わせたのなら、利用者の財産を故意に侵害したと構成するのが典型的な考え方です。

契約の取消しと違い、不法行為の請求では払ったポイント代そのものが損害になります。事案によっては慰謝料(民法710条)や、訴訟に必要な弁護士費用の一部が損害として認められることもあります。

紹介されている裁判例

サクラサイト被害に取り組む弁護士でつくる「サクラサイト被害全国連絡協議会」は、公開している裁判事例集で次のような判決を紹介しています。

  • 東京高裁平成25年6月19日判決:メールの相手方の内容が不自然でどれも実現していないこと、高額な利用料で利益を得るのはサイト業者以外にないことから、サイト業者の詐欺行為を認め、損害の全額について賠償を命じたとされています。一審で敗訴した事案が控訴審で逆転したものです。
  • さいたま地裁越谷支部平成23年8月8日判決:メールなどの証拠が残っていなかった事案で、国民生活センターに同じサイト業者についての相談が多数寄せられていたことなどから、相手方がサクラでなかったとは考えられないとして賠償を認めたと紹介されています。
  • 静岡地裁平成26年10月23日判決:被害額に加えて20万円の慰謝料を認め、代表者や口座の提供者の責任も認めたとされています。

どれも個別の事実関係にもとづく判断で、同じ結論になる保証はありません。ただ、メッセージの不自然さや約束が一度も実現しないことといった「状況の積み重ね」からサクラの関与が認められてきた点は、何を記録しておくべきかを考えるうえで参考になります。

請求の相手:運営会社・代表者・関与した者

請求の相手主な根拠ポイント
サイトの運営会社民法709条・715条1項サクラを従業員や委託先として使っていた場合、その者が事業の執行について加えた損害について使用者責任も問題になる
運営会社の代表者・役員会社法429条1項、民法709条職務を行うについて悪意または重大な過失があった役員は、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う
口座の提供者、系列サイトの運営者など民法719条共同で不法行為をした者は各自が連帯して全額の責任を負い、手助けした者(幇助者)も共同行為者とみなされる

サクラが疑われるサイトは、名称や運営会社が短い期間で入れ替わることがあります。同じ事例集によると、東京高裁平成29年9月27日判決は、サイトを引き継いだ事業者にも引き継ぐ前からの損害全額について共同不法行為の責任を認めた一審判決を維持しており、その一審はサイト名や業者を頻繁に変えることを「サクラサイト運営業者の常套手段」と述べたとされています。相手を運営会社1社に絞らず、関与した者を広く洗い出すのはこのためです。

反対に、DMを送ってきた人物を特定して個人を訴えるのは、実際には難しいことがほとんどです。アカウント名も写真も作り物である可能性が高く、特定にかかる手間に比べて回収の見込みが立ちにくいからです。請求の中心は、お金を受け取った側に置くのが現実的だと筆者は考えています。

時効は「知った時から3年」:数え方と止め方

不法行為による損害賠償の請求権は、被害者が損害と加害者を知った時から3年間行使しないとき、または不法行為の時から20年間行使しないときに、時効で消滅します(民法724条)。

  • 「加害者を知った時」の意味:最高裁昭和48年11月16日判決は、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとで、それが可能な程度に加害者を知った時をいうと判断しています。運営者の表記が偽りで、後から本当の運営者が分かった場合は、起算点が後ろにずれる可能性があります。
  • 20年の期間:不法行為の時から数えるため、被害から時間がたっている人も、まずこの枠に入っているかを確かめます。

期限が近いときは、時効の完成を一時的に止める方法があります。

  • 催告(民法150条):内容証明郵便などで支払いを求めると、その時から6か月間は時効が完成しません。ただし、その間に訴訟などを起こさないと効果は続かず、催告を繰り返しても延びません。
  • 協議を行う旨の合意(民法151条):相手と書面または電磁的記録で協議の合意をすると、原則として合意から1年間は完成しません。
  • 裁判上の請求など(民法147条):訴訟の提起、支払督促、民事調停の申立てをすると、その手続きが終わるまで時効は完成しません。

「いつ知ったか」は争いになりやすい部分です。自分で余裕を見積もるより、早めに弁護士に期間の計算を頼むほうが確実です。

立証のために、インスタ側の記録から確保する

不法行為の請求では、サクラが関与していたことを利用者の側で示していきます。インスタのDMは、その「最初の誘い」を示す記録です。次の順で確保してください。

  1. 相手のプロフィール:@から始まるユーザーネームが写るように保存します。表示名は変更できるため、IDの記録があると後で照合しやすくなります。
  2. DMの全文:最初の一通から、外部サイトのURLが送られてきた場面までを、送受信の日時が画面に入るように撮っておきます。
  3. 外部サイト内のメッセージ:退会や閉鎖で見られなくなるため、相手ごと・日付順に保存し、ポイント残高や消費が表示された画面も含めます。
  4. 支払いの一覧:購入日時・金額・支払い方法を表にし、明細や控えを添えます。
  5. 経緯のメモ:いつ、何と言われ、いくら払ったかを時系列で書き出します。記憶が新しいうちに作ったメモは、相談の場でもそのまま使えます。

画面を残すときの注意点は証拠の残し方で詳しく説明しています。

判決を得ても回収できるとは限らない:並行して進めること

訴訟になれば数か月から年単位の時間がかかり、勝っても相手に財産がなければお金は戻りません。サクラが疑われるサイトの運営者は、所在が分からなくなったり会社を閉じたりすることもあります。損害賠償の請求と並行して、次の手続きを検討してください。

  • 振込先口座が分かっている場合:金融機関と警察に口座の凍結を求め、振り込め詐欺救済法の分配手続きにつなげる方法があります(振込後の対処法)。
  • カードで払った分:カード会社に経緯を伝え、請求の扱いを相談します。
  • 弁護士会照会:弁護士に依頼すると、弁護士法23条の2にもとづき、所属弁護士会を通じて公務所や公私の団体に必要な事項の報告を求められます。前述のさいたま地裁越谷支部の事案でも、この照会で国民生活センターへの相談状況が確かめられたと紹介されています。

費用が心配な場合、法テラス(0570-078374)では収入などの条件を満たすと弁護士費用の立替えを利用できることがあります。消費者ホットライン188や弁護士会の相談窓口で、サクラサイト被害を扱う弁護士の情報を尋ねるのも一つの方法です。当サイトの相談予約からもご相談いただけます。契約そのものを消費者契約法で取り消す考え方はこちらの記事で扱っています。

よくある質問

Q. インスタグラムの運営会社に損害賠償を求められますか?

A. お金を受け取ったのは外部サイトの運営者で、プラットフォームの運営会社に賠償を求めるのは一般に難しいと考えられます。アカウントは通報し、請求はお金を受け取った側に向けるのが基本です。

Q. 不法行為の3年の時効は、いつから数えますか?

A. 損害と加害者を知った時からです。判例上、加害者に賠償を請求することが事実上可能な程度に知った時とされ、運営者の正体が分からなかった期間は含まれない可能性があります。これとは別に、不法行為の時から20年という期限もあります。

Q. DMやメッセージが消えてしまっても請求できますか?

A. 証拠が残っていない事案でも、同じ業者についての相談の多さなどから賠償が認められた裁判例が紹介されています。記録がないと難しくなるのは確かですが、明細や経緯のメモなど残っているものを集めて相談してください。

Q. 慰謝料も請求できますか?

A. 被害額に加えて20万円の慰謝料を認めた判決(静岡地裁平成26年10月23日)が紹介されています。認められるかどうかや金額は事案によって異なります。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供です。特定のサービス・事業者を詐欺と断定するものではなく、返金・解決を保証するものでもありません。個別の判断は弁護士や公的機関にご確認ください。

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参考資料

  • 警察庁「サイバー犯罪・特殊詐欺に関する情報」
  • 消費者庁・国民生活センター「消費者トラブルに関する公表情報」
  • 金融庁「無登録業者に関する注意喚起」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。記載内容により返金・回収・解決を保証するものではありません。個別のご相談は、弁護士または公的機関にご確認ください。