暗号資産取引所の口座を「貸して」「買い取る」と言われたら|犯収法の罰則

「使っていない暗号資産取引所のアカウントを買い取ります」「口座を貸すだけで1件数万円」。電話やSNS、求人風の投稿でこうした誘いを受けたら、応じずに断ってください。取引所のログインIDやパスワードなどを、他人になりすまして使わせる目的で渡したり、正当な理由なくお金をもらって渡したりする行為は、犯罪収益移転防止法(犯収法)第31条で処罰の対象です。さらに2026年7月10日からは、口座を渡さずに「代わりに送る」だけの依頼を引き受ける行為も、同法第32条の「送金犯罪」として罰則ができました。

この記事は、口座の貸し借りや売買、暗号資産の「購入代行」「送金代行」を持ちかけられた人と、すでにIDやパスワードを渡してしまった人に向けたものです。条文の中身、誘いの言い回し、渡してしまった後に被害と責任の広がりを抑える手順を順に説明します。

犯罪収益移転防止法第31条が禁じていること

犯収法第31条は、暗号資産交換業者が利用者を見分けるために付ける符号など、サービスを受けるのに必要な情報を「暗号資産交換用情報」と呼んでいます。ログインIDとパスワードの組み合わせは、その典型です。2026年7月10日施行の改正で罰則が引き上げられ、現在の条文は次のような構成になっています。

行為法定刑
他人になりすまして取引所を使う(使わせる)目的で、暗号資産交換用情報の提供を受ける拘禁刑3年以下か罰金500万円以下(両方科されることもある)
正当な理由なく、有償で暗号資産交換用情報の提供を受ける同上
相手になりすましの目的があると知りながら、暗号資産交換用情報を提供する同上
正当な理由なく、有償で暗号資産交換用情報を提供する同上
上の行為を業として(反復して)行う拘禁刑5年以下か罰金1,000万円以下(両方科されることもある)

買う側だけの話ではありません。報酬と引き換えにIDやパスワードを渡した側も処罰の対象に入っています。「もう使っていない口座だから」「数日だけ貸す約束だから」といった事情は、条文のいう「通常の商取引」のような正当な理由には当たりにくいと考えておくのが無難です。同条第4項は、こうした譲り渡しや買い取りをするよう人を勧誘したり、広告で誘ったりした者にも、第1項と同じ刑を定めています。「買取します」と投稿する側も処罰の範囲に入るということです。

2026年7月からは「代わりに送るだけ」も送金犯罪に

口座そのものを渡さず、本人が自分の口座を使ったまま、他人から頼まれたお金を別の口座へ送る。警察庁は、こうした手口が既存の口座売買の罰則を逃れるための「脱法的行為」として広がっていたと説明しています。これに対応して新設されたのが犯収法第32条で、警察は「送金犯罪」と呼んでいます。

  • 頼まれて送った人:正当な理由がないのに、相手の目的を知りながら有償で送金を引き受けると、拘禁刑2年以下か罰金300万円以下、またはその両方
  • 頼んだ人・募集した人:有償で送金を依頼したり、広告で人を誘ったりした場合も同じ法定刑
  • 繰り返し行った場合:拘禁刑3年以下か罰金500万円以下、またはその両方に重くなる

対象になる送金には、銀行口座だけでなく暗号資産交換業者のサービスを使った移転も含まれます。警察庁のポスターも「暗号資産等による送金も対象」と明記しています。「振り込まれたお金で暗号資産を買い、指定アドレスへ送れば手数料を引いて報酬にしていい」という依頼は、まさにこの形です。

一方で、飲み会の会費を幹事がまとめて店に払う、家族に頼まれて買い物代金を払うといった場面は、正当な理由がある送金として対象外と説明されています。区別の目安は「知らない相手から、報酬つきで、中身の分からないお金を動かすよう頼まれているか」です。

取引所の口座が求められる背景

国内の登録業者で口座を作るには、犯収法に基づく本人確認を通る必要があります。確認済みの口座からの送金は、記録の上では名義人本人の操作として残ります。他人名義の口座を手に入れれば、自分の身元を出さずに暗号資産を受け取ったり動かしたりできる。悪用する側の狙いはそこにあると考えられます。

警察庁の確定値によると、2025年(令和7年)の特殊詐欺では、被害者に暗号資産交換業者の口座へ振り込ませる「暗号資産振込」が628件・被害額80.3億円、暗号資産を直接送らせる「暗号資産送信型」が1,243件・196.9億円でした。支払い手段が実質的に暗号資産だった被害は、特殊詐欺の被害総額の19.5%に当たります。被害金の受け皿として暗号資産の口座が求められている状況が、数字からも読み取れます。

口座を渡した人や送金を引き受けた人は、知らないうちに被害金の通り道の名義人になります。取引所から口座を止められるだけでなく、捜査の過程で事情を聞かれる立場になることも考えられます。

誘いの言い回しと、その中身

口座の売買や送金代行の誘いは、別の言葉に置き換えて届くことがよくあります。次の表現が出てきたら、同じ種類の話だと受け止めてください。

  • 「アカウント買取」「口座レンタル」「名義貸し」:言葉どおりの意味です。1口座あたりの報酬額が書かれていることもあります。
  • 「本人確認済みアカウント募集」:本人確認を通った口座に値段をつけている、という意味になります。
  • 「スマホで完結する簡単な副業」「在宅で即日払い」:仕事の中身を尋ねると、口座を開いてログイン情報を送る作業だった、という流れがあります。
  • 「代わりに暗号資産を買って送るだけ」「購入代行」「送金のお手伝い」:他人のお金を自分の口座で暗号資産に替えて送る依頼で、上で触れた送金犯罪の形そのものです。

電話で突然「取引所の口座をお持ちですか」「使っていない口座を有効活用しませんか」と持ちかけられる形もあります。国民生活センターには、SNSで紹介された副業で、暗号資産のサイトで指示されたタスクをこなすと報酬がもらえると言われたのに違約金を請求された、という事例も寄せられています。報酬の話が取引所の口座の話に移った時点で、やり取りを止めてください。

IDやパスワードを渡してしまったときの手順

渡した後でも、早く動けば被害や責任の広がりを抑えられる可能性があります。次の順番で進めてください。

  1. 取引所の公式サポートに連絡する:第三者にログイン情報を渡してしまったこと、口座の利用停止を希望することを伝えます。窓口は公式サイトや公式アプリの中から探し、誘ってきた相手が教えた連絡先は使いません。
  2. パスワードと二段階認証を変える:相手がまだログインできる状態なら、正規のアプリから変更します。口座に登録したメールアドレス・電話番号が、知らないうちに別のものへ変えられていないかも確認します。
  3. 入出金と取引の履歴を保存する:自分が操作していない入金・購入・送付があれば、日時、金額、送付先アドレスを控えます。
  4. 警察に相談する:#9110(警察相談専用電話)か、近くの警察署に連絡します。誘われた経緯、相手のアカウントや電話番号、報酬を受け取ったかどうかと金額を、隠さずに伝えます。
  5. 受け取った報酬に手をつけない:いつ、いくら、どの方法で受け取ったかを整理し、相談先の指示を待ちます。

相手から「警察に言えばあなたも捕まる」「個人情報をばらす」と脅されることもあります。脅しのメッセージや着信履歴も消さずに残し、相談の際に見せてください。保存のしかたは証拠の残し方にまとめています。

家族や知人が誘われていると気づいたら

口座の売買や送金代行の誘いは、若い世代や副業を探している人に向けて出回りやすい傾向があります。家族や知人から「口座を作るだけでお金がもらえるらしい」と聞いたときは、次の点を一緒に確かめてください。

  • 作った口座のIDやパスワード、二段階認証のコードを相手に渡す仕事になっていないか
  • 自分以外のお金を受け取り、暗号資産に替えて送る仕事になっていないか
  • 募集している会社の名前・所在地・連絡先が、公式な情報で確かめられるか

一つでも当てはまれば、報酬の額にかかわらず断るのが安全です。すでに口座を渡していた場合は、責めるより先に、上の手順で取引所と警察への連絡を急いでください。本人が一人で抱え込むと、脅されて追加の作業を引き受けてしまうことがあります。

相談先

口座の売買や送金代行に関わってしまった、あるいは誘われて迷っているときの窓口は次のとおりです。

  • 警察相談専用電話 #9110(脅されている、すでに送金した場合は最寄りの警察署へ)
  • 消費者ホットライン 188(副業の勧誘など消費者トラブル全般)
  • 金融庁 金融サービス利用者相談室 (電話0570-016811、IP電話の場合は03-5251-6811):暗号資産を含む金融サービス全般の相談を受けています

自分の口座から外部へ暗号資産が送られていた場合は国内取引所から送った暗号資産は戻る?を、送付の記録をどう保存するかは暗号資産詐欺の証拠の残し方で扱っています。自分が罪に問われるのではと不安なときは、一人で抱えずに弁護士の意見を聞くのも一つの方法です。

よくある質問

Q. 使っていない取引所のアカウントを売るのは違法ですか?

A. 犯罪収益移転防止法第31条は、正当な理由なく有償で暗号資産交換用情報(取引所のサービスを受けるのに必要なIDなど)を提供することを処罰の対象にしています。使っていない口座でも、売れば同じ扱いになるおそれがあります。

Q. お金は受け取っていません。口座を貸しただけでも問題になりますか?

A. 相手が他人になりすまして取引所を使う目的だと知りながら情報を渡した場合も、同条の処罰対象です。報酬の有無だけで判断せず、早めに取引所の公式窓口と警察に相談してください。

Q. 「代わりに暗号資産を買って送るだけ」の仕事は受けてもいいですか?

A. 2026年7月10日から、正当な理由なく有償で送金を引き受ける行為は、犯罪収益移転防止法第32条の「送金犯罪」として処罰対象になりました。暗号資産による送金も含まれます。引き受けないでください。

Q. 電話で「取引所の口座を有効活用しませんか」と言われました。どう対応すればいいですか?

A. 口座のIDやパスワード、認証コードは伝えずに電話を切ってください。相手の番号と話の内容をメモしておき、不安があれば#9110に相談できます。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供です。特定のサービス・事業者を詐欺と断定するものではなく、返金・解決を保証するものでもありません。個別の判断は弁護士や公的機関にご確認ください。

この記事をシェアして注意を広める

詐欺返金相談ナビの相談前整理事例

サイト名、サービス名、担当者名、LINE名、決済名などで確認している方は、事例パターンと証拠の残し方を分けて確認してください。個別の違法性、返金可否、削除可否、解決を断定するものではありません。

相談前に、被害状況を整理しておきましょう

LINEで相談前チェックリストを受け取り、支払い方法・証拠・やり取りを整理できます。弁護士確認が必要なケースも確認できます。

LINEでチェックリストを受け取る 登録は無料 / 一般情報の提供を目的としています

参考資料

  • 警察庁「サイバー犯罪・特殊詐欺に関する情報」
  • 消費者庁・国民生活センター「消費者トラブルに関する公表情報」
  • 金融庁「無登録業者に関する注意喚起」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。記載内容により返金・回収・解決を保証するものではありません。個別のご相談は、弁護士または公的機関にご確認ください。