石油掘削リグ勤務を名乗る相手の「通信が不安定」|会えない言い訳の見分け方

マッチングアプリやSNSで知り合った相手が「海の上の石油掘削リグで働くエンジニア」と名乗り、「電波が弱いから通話は難しい」「次に陸へ戻るまで会えない」と繰り返す。この記事は、そんなやり取りが続いている方のためのものです。

結論から言うと、洋上の現場で通信が不安定だという説明は、外からは確かめる方法がほぼありません。確かめられない事情を理由に会えない状態が続き、その上にお金の頼みが乗ってきたら、送金はいったん止めて、第三者に話してください。相手が本当にエンジニアかどうか、どこの国の人かは、判断の軸になりません。見るべきなのは「会ったことのない相手が、お金を必要としているかどうか」です。

本記事はエンジニア・技術者を名乗る相手からの国際ロマンス詐欺のうち、「通信」と「会えない理由」に絞った回です。写真や勤務先の確かめ方、荷物や通関費の請求などは、同じシリーズの別記事で扱っています。

「洋上の現場で働いている」という設定が選ばれやすい理由

米国の連邦取引委員会(FTC)は2023年2月のデータ分析で、恋愛目的の詐欺で語られた嘘を整理しています。そこでは、遠くの軍事基地にいるという話が最も多い言い訳だとしたうえで、「洋上の石油掘削リグの作業員」も、よく使われる(偽の)職業だと書かれています。FBIも同じ趣旨で、建設業に携わり国外のプロジェクトに従事していると名乗る例が多く、それが「直接会わずに済むこと」と「急病や思わぬ法的費用を理由にお金を求めること」を自然に見せる、と説明しています。

この設定には、だます側にとって都合のよい要素が三つそろっています。

  • 会えない理由が長期間続く:数か月単位の交代勤務、陸から離れた現場、といった話にすれば、会う約束を先延ばしにしても不自然に聞こえにくい。
  • 連絡が途切れても言い訳が立つ:「回線が落ちた」「嵐で通信制限が出た」と言えば、返信が何日も止まった後に突然戻ってきても説明がつく。
  • 手元にお金がない理由になる:「海の上では銀行もATMも使えない」「給料は契約満了時にまとめて出る」と言えば、恋人に立て替えを頼む流れをつくれる。

もちろん、実際に洋上施設や海外の建設現場で働く技術者は大勢います。職業そのものが問題なのではありません。問題は、確かめようのない勤務事情が、会わないこととお金の話の両方を支える柱になっているかどうかです。

「通信が不安定」のパターンと、そのとき起きていること

相手の説明と、あなたの側から実際に見えていることを並べると、話の形がつかみやすくなります。

相手の説明あなたから見えること確かめ方の例
「衛星回線だから映像は送れない」文字と写真は毎日届くのに、ビデオ通話だけ成立しない数秒だけでよいので、指定した動作をしてもらう通話を提案する
「勤務中は私用端末を預ける決まり」返信の時間帯が日によってばらばらで、勤務シフトの説明と合わない聞いた勤務時間と返信時刻を日付つきでメモする
「嵐で数日連絡できなかった」連絡が戻った最初の話題が、事故・病気・お金のトラブル途切れる前後の話題を時系列で並べてみる
「アプリは電波を食うのでLINEで」出会ったアプリから早い段階で外部のメッセージアプリへ移された移行前のアプリのプロフィールとやり取りを保存しておく

最後の行は、警察庁の統計とも重なります。令和7年(2025年)のSNS型ロマンス詐欺では、被害時の連絡ツールの93.8%(5,294件)がLINEでした。出会った場所がマッチングアプリやInstagramでも、お金の話が出る段階では別のアプリに移っている、という流れが数字に表れています。

ここで大事なのは、どれか一つが当てはまったら即アウト、という読み方をしないことです。通信が不安定な現場も実在します。ただ、「顔が見えない」「会えない」「お金が要る」が同じ人物の中でそろったとき、その組み合わせは公的機関が繰り返し注意を呼びかけている形と一致します。

警察庁の統計で見る、出会いの場と「名乗られる身分」

警察庁が令和8年5月に公表した確定値によると、SNS型ロマンス詐欺は令和7年の1年間で5,645件が認知され、被害額は546.4億円にのぼりました。件数も金額も前年より増えています。令和8年上半期(1〜6月、暫定値)も認知件数2,509件、被害額246.6億円と、前年同期とほぼ同じ水準で続いています。

出会いの入口になったツールを見ると、1位はマッチングアプリの1,846件でした。2位のInstagramが1,288件、3位のFacebookが1,049件で、この上位三つで7割ほどになります。

注目したいのは、犯人側が名乗った身分です。地域の設定では、最も多いのは国内に住んでいるという設定で、3,461件(全体の6割ほど)でした。海外の地域を名乗る例はその残りの中にあります。職業の設定では投資家が627件で最も多く、会社員の507件、会社役員の378件がそれに次ぎ、医療関係や芸術・芸能関係を名乗る例も見られました。「エンジニア」は独立した区分として上位には出ていません。

ここから言えるのは二つです。

  1. 「相手が外国籍だから危ない」「日本人なら大丈夫」とは言えない。国籍や出身地を名乗るのは自由で、統計上もむしろ国内在住を名乗る例が多数派です。
  2. 職業の肩書きで安全かどうかは判断できない。エンジニア、医師、軍人、投資家と、肩書きは入れ替わっても、会わずに信頼を深め、お金の話へ進む流れは共通しています。

会えない状態が続くときに、自分で確かめられること

相手を問い詰める必要はありません。やり取りの記録を自分で見直すだけで、判断材料はかなり集まります。

勤務の話と連絡のリズムを突き合わせる

「2週間勤務・2週間休み」「28日交代」などと聞いているなら、休みに入ったはずの時期に何が起きたかを確かめます。休みなのに会う話が進まない、休みの直前に限ってトラブルが起きる、といった偏りがあれば、メモとして残しておきます。

写真とプロフィールの出どころを調べる

FBIは、相手の写真やプロフィールをネットで検索し、同じ画像や名前、経歴が別の場所で使われていないか調べるよう勧めています。作業着やヘルメット姿、洋上施設を背景にした写真は、他人の投稿から集めやすい素材です。具体的な手順は写真と勤務先の確かめ方でまとめています。

ビデオ通話ができても、それだけで判断しない

外務省の注意喚起によれば、公開されている写真と翻訳アプリやAIを組み合わせることで、誰でも他人を装い、声や動画まで用意できてしまいます。通話がつながったかどうかより、通話の後にお金の話が出てこないかを見てください。通話と送金の関係はビデオ通話ができた相手は本物かでも扱っています。

「数か月会えていない」という事実を重く見る

FBIは、会うと約束しながら毎回会えない理由を持ち出す相手に注意し、数か月たっても会えていないなら、理由が何であれ疑うのに十分な根拠がある、としています。洋上勤務という説明は、この「数か月」を簡単に引き延ばせてしまう設定です。

お金の話が出てきたときの線引きと断り方

洋上勤務を名乗る相手から出てきやすい頼みは、次のような形をとります。

  • 通信用のプリペイドカードやデータ通信の追加料金を払ってほしい
  • 休暇を申請するための費用、下船・帰国の手続き費用が要る
  • 現場で事故やけがをした、医療費をいったん立て替えてほしい
  • 給料が出るまでの生活費や、会いに行く航空券代を貸してほしい

外務省も、仕事の契約を解除するための違約金、会いに来るための旅費の立て替え、家族の治療費などを、ロマンス詐欺でよく使われる口実として挙げています。

線引きは一つで足ります。直接会ったことのない相手には、名目が何であっても送金しない。FBIも、オンラインや電話でしかやり取りしていない相手にはお金を送らないよう呼びかけています。

断るときは、理由を細かく説明するほど反論の材料を与えます。短く、同じ言葉を繰り返すほうが続けやすいはずです。

「会ったことのない人にはお金を送らないと決めています。会えたら、そのとき改めて話しましょう。」

これに対して怒る、泣きつく、別れ話をちらつかせる、上司や医師を名乗る別の人物が連絡してくる、といった反応が返ってきたら、その反応自体が判断材料になります。

迷っている段階でも、送った後でも使える相談先

「まだ送っていないけれど気になる」という段階でも相談できます。話す前に、次のものを手元に集めておくと進みが早くなります。

  • 最初に出会ったアプリやSNSの画面(相手のプロフィール、ユーザー名)
  • LINEなど移行後のトーク履歴。削除される前にスクリーンショットと書き出しで保存する(証拠の残し方)
  • 相手が語った勤務先・現場名・勤務シフトのメモ
  • 送金した場合は、日時・金額・振込先・手段が分かる記録
相談先向いている場面
警察相談専用電話 #9110相手が詐欺かどうか判断に迷う、今後の対応を相談したい
最寄りの警察署すでに送金した。被害届や相談の受理を求めたい
消費者ホットライン 188支払いを求められている、どう断るか一緒に考えたい
振込をした金融機関送金直後。振込先口座の凍結を求めたい

振込をしてしまった後の手続きは振込した後の対処法、全体の流れは相談の流れで確認できます。返金を約束する業者からの連絡には、すぐに応じないでください。

よくある質問

Q. 石油掘削リグで働いていると言う人は、みんな詐欺ですか?

A. いいえ。洋上施設で働く技術者は実在します。FTCが「よく使われる偽の職業」として挙げているのは、確かめにくい勤務事情が会えない理由とお金の頼みを支えやすいからです。職業ではなく、会ったことのない相手からお金を求められているかどうかで判断してください。

Q. ビデオ通話が一度できました。本人と考えてよいですか?

A. 外務省は、AIなどで他人になりすました音声や動画を作れると注意しています。通話ができたことより、その後にお金の話が出るかどうかを見てください。

Q. 通信費やプリペイドカード代くらいの少額なら送っても大丈夫ですか?

A. 少額の支払いに応じると、次はより大きな名目の頼みが来る流れがよく見られます。金額にかかわらず、会ったことのない相手には送らないという線を守るほうが安全です。

Q. 相手が本当にエンジニアかどうか、会社に確認できますか?

A. 会社の公式窓口を自分で調べて問い合わせることはできますが、個人の在籍について答えてもらえるとは限りません。確認できないこと自体を前提に、送金しない判断を優先してください。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供です。特定のサービス・事業者を詐欺と断定するものではなく、返金・解決を保証するものでもありません。個別の判断は弁護士や公的機関にご確認ください。

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参考資料

  • 警察庁「サイバー犯罪・特殊詐欺に関する情報」
  • 消費者庁・国民生活センター「消費者トラブルに関する公表情報」
  • 金融庁「無登録業者に関する注意喚起」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。記載内容により返金・回収・解決を保証するものではありません。個別のご相談は、弁護士または公的機関にご確認ください。