インスタで知り合った石油リグ勤務の相手に子どもの治療費を頼まれたら

Instagramのメッセージから始まった相手は、洋上の石油リグで働くシングルファーザーだと言う。子どもの写真も見せてくれて、関係が深まったころ、「娘が入院した」「学費の締め切りに給料が間に合わない」と、治療費や学費の相談が来た。助けたい気持ちと、何かおかしいという感覚の間で揺れている人のための記事です。

はじめに伝えたいことがあります。子どもや家族の病気を理由にしたお金の頼みは、外務省やFTC(米国連邦取引委員会)が典型例として挙げている手口の一つです。相手の話が本当かどうかを自分だけで見抜く必要はありません。「会ったことのない人に、確かめられない理由でお金を送らない」という線を先に決めておけば、それで十分に身を守れます。

この記事は、石油掘削・洋上施設の作業員を名乗る相手についての連載のうち、家族の事情を理由にしたお金の相談を取り上げる回です。

「子どもを一人で育てている」という設定と、お金の相談

石油リグ勤務を名乗る相手のプロフィールには、家族にまつわる話が添えられていることがあります。配偶者を亡くした、子どもは寄宿学校や親戚に預けている、次の休暇で会いに行くのが楽しみだ、といった内容です。優しい親の姿は、それだけで人柄を信じたくなる材料になります。

そのうえで、次のような相談が届きます。

  • 子どもが急病で入院し、保証金を払わないと治療が始まらない
  • 学費や寮費の支払期限が迫っているが、リグにいるので送金できない
  • 家族の手術費が足りず、給料が出る契約満了まで待てない
  • 子どもの誕生日に間に合うよう、プレゼント代を立て替えてほしい

2025年4月に外務省が出した広域情報には、ロマンス詐欺でよく使われる言葉の一つとして「自分の家族が難病なので、治療費として送金してほしい」を挙げ、恋愛感情や同情心が利用されると書いています。FTCも、恋愛目的の詐欺で求められるお金の名目として医療費を挙げています。家族の病気という理由は、断ることに罪悪感を抱かせやすいため、繰り返し使われていると考えられます。

同情が判断を急がせる仕組みを知っておく

治療費の相談が他の名目と違うのは、「断ったら子どもが危ない目に遭うかもしれない」という想像を呼び起こす点です。その結果、普段なら確かめることを飛ばして送金してしまいがちになります。

やり取りを振り返ると、次のような言葉が添えられていないでしょうか。

  • 「あなたしか頼れる人がいない」
  • 「今夜中に払わないと手術ができない」
  • 「元気になったら娘と一緒にお礼を言いに行く」
  • 「会社に知られると仕事を失うから、前借りはできない」

どれも、あなたの優しさに訴えかけ、同時に考える時間を奪う言葉です。本当に緊急の医療が必要な場面では、病院や公的な制度、現地の家族や勤務先が先に動くのが普通で、遠く離れた、まだ会ったこともない恋人がその場で送金しなければ治療が始まらない、という状況は想像しにくいものです。

「疑うのは冷たいことだ」と感じるかもしれませんが、確かめることは相手を傷つける行為ではありません。本当に困っている人なら、あなたが慎重になることを理解してくれるはずです。

気持ちが揺れているときに、時間を置く工夫

同情から判断を急がないために、あらかじめ自分なりのルールを作っておくと役に立ちます。

  • 一晩ルール:お金の相談を受けたら、その日のうちには返事をしない。翌朝に読み返すと、前夜は気づかなかった矛盾が見えることがあります。
  • 書き出してみる:これまでに頼まれた名目と金額、日付を紙に並べる。治療費、学費、手続き費と名前が変わっても、依頼が途切れず続いていることが目に見えます。
  • 声に出して誰かに話す:家族や友人に「こういう相談をされている」と説明してみる。人に話そうとすると、自分でも説明しにくい部分に気づきます。
  • 上限を決めておく:金額の上限ではなく、「会うまではゼロ」と決めておくほうが、後から例外を作りにくくなります。

これらは相手を疑うための作業というより、自分の気持ちを守るための準備です。

診断書・請求書・病院の写真を送られたときの確かめ方

お金の相談に合わせて、入院中の子どもの写真、診断書、病院の請求書などが送られてくることがあります。本物らしく見える書類ほど信じたくなりますが、画像はいくらでも作り直せます。次の順で確かめてみてください。

  1. 病院名を自分で検索する:書類にある病院が実在するか、所在地と連絡先は一致するかを、病院の公式サイトで確認する。
  2. 公式の連絡先に自分で問い合わせる:書類に書かれた電話番号やメールではなく、公式サイトにある代表窓口を使う。患者の情報は教えてもらえなくても、「支払いを個人口座で受け付けることがあるか」は尋ねられる。
  3. 振込先の名義を見る:病院や学校の請求なのに、振込先が個人名の口座、送金アプリ、ギフトカード、暗号資産のアドレスになっていれば、その時点で立ち止まる。
  4. 写真を画像検索にかける:入院中の子どもや病室の写真が、別のサイトやニュース記事、他人のSNSで使われていないかを確かめる。
  5. 病院や学校に直接払う提案をしてみる:「私から病院に直接払うので、請求先を教えて」と伝えたとき、相手が理由をつけて断るかどうかも判断材料になる。

これらを試して一つでも説明がつかないことがあれば、送金は見送ってかまいません。写真や身分証の確かめ方全般は写真・社員証の確かめ方の記事でも詳しく扱っています。

Instagramで出会った相手ならではの確認ポイント

警察庁の令和7年の確定値によると、SNS型ロマンス詐欺の最初の接点となったツールはマッチングアプリに次いでInstagramが多く、1,288件でした。Instagramは写真が中心のSNSなので、プロフィールそのものが「信用できそうな人物像」をつくる道具になりやすい面があります。

  • 投稿の時期と量:アカウントが作られたばかりなのに、子どもや職場の写真が一度にまとめて投稿されていないか。
  • 写真の一貫性:子どもの年齢や顔立ち、住んでいる地域の景色が投稿ごとに食い違っていないか。
  • フォロワーとコメント:知り合いらしい人からの自然な反応があるか。外国語の定型的なコメントばかりではないか。
  • 同じ写真の別アカウント:名前を変えた別アカウントが同じ写真を使っていないか。

気になる点が見つかったら、記録を取ったうえでInstagramの報告機能からアカウントを報告できます。警察も、詐欺に悪用されたInstagramやFacebookのアカウントについて、運営するMeta社へ情報を提供し、利用停止などを働きかけていると公表しています(令和7年中は422件)。

なお、写真に写っている子どもや家族は、無関係の実在の人物である可能性があります。確かめる目的を超えて、写真を拡散したり、写っている人を探し当てようとしたりするのは避けてください。

助けたい気持ちを、送金以外の形で伝える

「相手を疑いたくない」「力になりたい」という気持ちは、否定されるべきものではありません。大切なのは、その気持ちをお金に換えないことです。送金を断るときは、次のような言い方ができます。

  • 「会うまでは、どんな理由でもお金は送らないと決めているの。心配しているのは本当だよ」
  • 「病院に直接連絡して、公的な支援や分割払いが使えないか聞いてみて」
  • 「家族や友だちにも相談して、一緒に考えるね」

それでも「冷たい」「愛していないのか」と責められるなら、相手の関心がどこにあるかを示すサインとして受け止めてください。外務省は、少しでも不信に感じたら一人で抱え込まず、送金前に家族などの身近な人や警察に相談するよう求めています。

話を聞いてもらうだけでも、気持ちの整理がつきやすくなります。消費者ホットライン(188)や警察相談専用電話(#9110)は、詐欺かどうか決めかねている段階でも利用できます。

すでに治療費や学費を送ってしまった場合

送ってしまったことに気づいたら、自分を責めるより先に、次の手順を進めましょう。

  1. 追加の支払いをしない:「退院の手続き費用」「追加の検査代」など、名目を変えた請求が続くことが多いため、ここで止める。
  2. やり取りと送金記録を保存する:Instagramのメッセージ画面、送られてきた診断書や写真、振込の明細を残す。
  3. 送金の方法に応じて連絡する:銀行振込なら振込先の金融機関と警察へ、ギフトカードなら発行会社へ、暗号資産なら利用した交換業者と警察へ、できるだけ早く伝える。
  4. 相談窓口に話す:最寄りの警察署か #9110 へ。消費生活の相談なら 188 番で近くの窓口につながる。

支払い方法ごとの細かな流れは、送金後の手続きを支払い方法別にまとめた記事で扱っています。すぐに気持ちを切り替えるのは難しくても、手続きは早いほど選べる手段が残ります。

また、一度お金を送った人には「取り戻してあげる」という別の連絡が届くことがあります。返金をうたう広告や業者については返金をうたう動画・広告の注意点にまとめました。相手の子どもや家族を心配する気持ちが残っていても、それは自然なことです。気持ちの整理と手続きは、別々に進めてかまいません。

よくある質問

Q. 石油リグで働く相手から、入院している子どもの写真と診断書が届きました。本当の話でしょうか?

A. 写真や診断書だけでは判断できません。病院名を自分で調べ、公式の代表窓口に問い合わせる、振込先が病院名義かどうかを見る、といった方法で確かめてください。説明のつかない点があれば、送金は見送ってかまいません。

Q. 少額の学費くらいなら、助けてあげてもよいのではないでしょうか?

A. 最初は少額でも、送金に応じると名目を変えた依頼が続くことが多いと言われています。金額の大小ではなく、会ったことのない相手に、確かめられない理由でお金を送らないという線を守ることが大切です。

Q. 送金を断ったら、相手のInstagramアカウントが消えてしまいました。もう何もできませんか?

A. アカウントが消えても、手元に残したスクリーンショットや送金の記録は相談の材料になります。すでに送金している場合は、振込先の金融機関や警察へ早めに連絡してください。記録がない場合でも、覚えている日時や金額をメモにして#9110や188に相談できます。

Q. 断ったら、相手の子どもが本当に困るのではと不安です。

A. 本当に治療が必要な場合、病院や公的制度、現地の家族や勤務先が動くのが一般的です。あなたが送金を断ることで治療が止まる、という状況は考えにくいものです。不安な気持ちは188や#9110で話を聞いてもらうこともできます。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供です。特定のサービス・事業者を詐欺と断定するものではなく、返金・解決を保証するものでもありません。個別の判断は弁護士や公的機関にご確認ください。

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参考資料

  • 警察庁「サイバー犯罪・特殊詐欺に関する情報」
  • 消費者庁・国民生活センター「消費者トラブルに関する公表情報」
  • 金融庁「無登録業者に関する注意喚起」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。記載内容により返金・回収・解決を保証するものではありません。個別のご相談は、弁護士または公的機関にご確認ください。